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2009/09/17

のら

Img444 入江紀子 著。シンバットにて1991年連載開始、以後掲載誌をヤングクラブ、コミックガンマ、スピリッツ21と変えつつ断続的に掲載。画像は竹書房版の単行本3巻まで未完。後にアスキーよりアスペクトコミックスとして、単行本全3巻完結。

 歳は知らない。誕生日も知らない。戸籍も無い。住民票も無い。親も兄弟も親戚もいない。帰る家は時々あるけど、普段は無い。自称木の股から生まれた、二十歳前に見えるその女性は、名前ももちろん、無い。「だから、好きな名前で呼んで。ずっとそうしてきたから――」 失恋し、やけ酒を飲んだ後の繁華街で出会い、そのまま泊めてと小林が一人暮らしをしている部屋まで付いてきた彼女は、こともなげにそう言った。「出てけって言われたらすぐ出てくよ」 あっさりそう言う彼女は、出てけと言わない限り、本当に出て行きそうもなかった。だけど、何日か経って、不意に情が移りそうになったとき……。彼女はコンビニに行くとでかけ、そのまま帰ってはこなかった。のら……彼女と袖すり合った人たちは、人の優しさと、ぬくもりと、そして自由を思い出す。

 そんな感じの、住所不定年齢不詳の名無し少女、通称「のら」を中心とした、彼女に関わった人たちの綴るオムニバスストーリー。一番呼ばれる名前がのらなのであって、他の名前で呼ばれている事もあります。物語の基本は、のらが誰かの家に居候したり、野宿したりと、特に目的もなく(あるのかもしれませんがその辺は不明)自由に生きているのを見た他の登場人物が、彼女に感化されることで、気づけていなかった新しい生き方、視点等に気づいていく、というものです。のらの性格や生き方ももちろんいいのですが、のらに関わった人たちが、のらから影響を受けて変わっていく様というのが、読んでいてとても心地いいんですよね。こう書くとのらはまるで幸せを運ぶ妖精のようですが、実際作中では、のらはまるで実在の人物ではなく、どこかファンタジックな存在として意図的に描かれている事もあります。戸籍無し住所無し名前無しという、一見それは無理と思える設定までもが、のらが不確かな存在であるというイメージに一役買っている感じでした。

 この作品にはきちんとした最終回というものが多分無く、未完状態で終わっているわけですが、それすらもこの作品の一部なんだ、という気分です。いつかひょっこり、のらは帰ってくるかもしれない。そう思わせる終わり方が、この作品に一番似合っているのは間違いないでしょうし。でも、二度と同じ人の所には帰ってこないんでしょうけどね。だから登場人物たちは思うのでしょう。願わくば、のらが今日もどこかで、自由に生きていますように、と……。人の優しい気持ちを思い出せる、素晴らしい作品でした。

 作者の作品は、この作品を含む初期の数作以外はほぼすべて女性誌掲載作品でして、現在も活躍の場はそちらなのですが、最近は年に1、2作しか作品を発表していない……のかな? ずっと追ってはいたつもりだったのですが、情報が少なくて、単行本も持ってたり持ってなかったりという状態だったりします。個人的にはこの作品が一番好きなわけですが、続編をなんて贅沢は言わないので、定期的に作品を読めるようになればいいなー、と思っています。

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