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2009/10/25

グラン・ローヴァ物語

Img479 紫藤恭子 著。コミックトムにて1989年~93年にかけて連載、単行本全4巻完結。画像は現在発売中の文庫版、全2巻完結。

 自分は賢者であると騙り、田舎の村を渡り歩いて寝食を得ていた詐欺師のサイアムは、滞在していた村に本物の賢者である「放浪の賢者(グラン・ローヴァ)」がやってくると耳にする。このままでは自分が賢者ではないことがばれてしまうと、サイアムはグラン・ローヴァを村に来させないように画策するが、なんとやってきたのは重厚さの欠片も無い、まるで子供のように元気で自由奔放な小柄の老人だった。サイアスは当初、この飄々とした物言いの老人も、グラン・ローヴァの名を騙る詐欺師だと考えるが、話していくうちに彼は老人が本物のグラン・ローヴァであるということに、疑いを持たなくなっていた。そして何故かグラン・ローヴァに気に入られてしまったサイアスは、付き人兼弟子として老人に同行することとなるが、それは持つ物の願いを叶えてしまうという強すぎる魔力を持った銀晶球にまつわる、新たな物語の幕開けであった……。

 そんな出だしの、いわゆる剣と魔法の世界を舞台とした本格ファンタジー。同作者のデビュー作「辺境警備」と世界は同じ、時代は約150年前となっており、辺境警備にはほとんど出てこない妖魔や古の獣等、太古から存在している生き物が数多く出てくるのが特徴。画像の女の子、イリューシアも、実は2000年以上を生きる(種族内ではまだ若い)大蛇の仮の姿です。物語の大筋は、銀晶球の力をその身に宿してしまったサイアスは、人が大きすぎる力を得てしまうことの意味を知るために旅を続けるが……、という感じなのですが、そこには「人が力を得る=人以外(精霊や妖魔、太古の獣等)の力が失われる」という意味が含まれていて、この時代が精霊や妖魔が生きる時代から人間の時代へと移り変わるターニングポイントである、ということを示しています。そう、知ってる人ならすぐ気付くと思いますが、あの名作ファンタジー小説「指輪物語」に非常に近いテーマですよね。最後はイリューシアや精霊たちが、住みづらくなった人間の世界に別れをつげ、遙か西の海の果てにある別の世界を目指して旅立つ、なんてのももうそのまんまです。

 メインのストーリーは指輪物語とはもちろん違うわけですが、この作品の面白さの担っているのは、やっぱり上記のような叙事詩的な部分もあると思うんですよね。なので私には、どうしても指輪の影が拭いきれなかったなー、というのが正直な感想でした。ただしこれは、私の中で指輪の印象が強すぎるからそうなってしまうのであって、けして指輪のパクリとかではないということは付け加えておきます。そもそもいわゆる神話の時代を扱う物語なら、こういった神話の時代から人の時代への転換、というのはどんな作品でも通りうる道の一つでしょうしね。

 作者の作品は前述の辺境警備だけは読んでいたのですが、同じ世界を舞台とした作品が他にもあると知り、さっそく読んでみたのが今作です。期待に違わず面白かったですし、次はこれまた同じ世界を舞台にした「東カールシープホーン村」を読んでみようと思っています。こういった共通世界を舞台とした作品をいくつも描いてくれる、というのは、作品単体の面白さ以外にも、広がりを色々感じられていいですよねー。

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