こうの史代

2009/11/21

夕凪の街 桜の国

Img506 こうの史代 著。漫画アクションにて2003年~04年にかけて断続掲載、単行本全1巻完結。

 太平洋戦争の終結する昭和20年8月、家族で広島に住んでいた平野皆実は、米国の原子爆弾により被爆する。皆実は幸い軽いやけどで済んだものの、父は翌日死亡、妹は行方不明のまま二度と会えず、直後は元気だった姉は二ヶ月後に倒れ、伯母宅に疎開していた弟はそのままそこの養子となり、皆実は生き残った母と二人で、焼け出された人たちが集まるスラムのような集落で暮らし始める。そして10年後――23歳となり、とある建築会社で働いていた皆実は、表向きは元気な若い女性として回復していた。だが、しあわせだと思うたび、美しいと思うたび、皆実の心はあの日に引きずり戻される。家族を失い、町を失い、そして人としての尊厳を失った、悪夢のようなあの日に……。

 そんな感じの、いわゆるヒロシマを扱ったドキュメンタリー風マンガ。上記あらすじは第一部となる「夕凪の街」のものであり、それに32年後(1987年)を舞台とした「桜の国(一)」と、さらにその17年後(2004年)を舞台とした「桜の国(二)」を合わせた、三部構成の作品となっています。圧巻なのは、第一部となる「夕凪の国」。作者も後書きでオチの無い物語と書いていて、実際その通りなのですが、ストーリーのキーとなるものが戦争や原爆に対する批判とか現状とか思いとかそういう直接的な物ではなく、精神的なダメージとそれにともなうPTSDなんですよね。細部は書きませんが、この作品内で主人公の皆実がしているような思考は、ちょっと私が今まで想像したことが無かったものでした。果たしてそれが現実にありうるものなのかどうかは私には判断できませんが、こういう一面もありますと面と向かって言われれば、信じるだけに足るリアリティはありましたね。ああ、原爆投下という事実にはこういう一面もあったのか、と思い知らされた気分です。世の中、知らないことばっかりだー。

 マンガ作品としては、「夕凪の街」のラストは悲劇的なものですが、心情的には救われている部分もあるので、読後感が悪いということはありません。良いというわけでもないので非常に複雑なんですが、そこがオチの無い物語たる所以でしょう。「桜の国」の方は、ラストも救われているというかすがすがしくて、こちらはマンガ作品として成り立ってると思います。ただやはり「夕凪の街」があってこそだとは思いますけどね。

 「夕凪の街」ラストで、このお話はまだ終わっていません、と繰り返し書かれていますが、実際、人の記憶にある限り、永遠に終わらないお話なのでしょう。そしてこの話が記憶にあるということは、けして悪いことではなく、むしろ人として良い結果を導いてくれる素養となるはず。この作品には一読の価値があると私が考えるのは、そのような理由からです。

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2009/04/27

この世界の片隅に

Img299 こうの史代 著。漫画アクションにて2006年~09年にかけて連載、単行本全3巻完結。

 昭和18年末、広島市江波に住む絵を描くことが好きな少女、浦野すずは、幼少時に一度出会ったことがある北條周作の求婚を受け、呉市上長ノ木町へと嫁ぐことになる。時は大東亜戦争(いわゆる太平洋戦争)まっただ中、東洋一と名高い軍港のある呉は、すずが生まれ育った江波と比べると、当然の如く戦争が身近な町であった。呉鎮守府に勤める夫とその両親との、すずの新しい生活が始まる。

 太平洋戦争中期~末期の呉を舞台とした、すずと戦争の物語。主婦としての視点からの戦争なので、空襲を除いた直接的な戦闘の様子が描かれることはなく、配給品を買いに行ったり、闇市に行ったり、防空壕を掘ったり、空襲にあったり、等々、戦時下でも当然のように営まれる日々の生活を描いた作品です。テーマは暗いですが、すずのうっかり屋で天然で物事を良い方に考える性格のおかげで、ほのぼのとした作品に仕上がっています。敗色濃厚となり本土空襲が始まる終盤はさすがに重苦しい話が続きますが、最終回の終わり方も、ホロリ涙がこぼれる非常に良い、未来を感じさせるものでした。このあたり、同じ戦時中で原爆の投下される広島を舞台とした「夕凪の街 桜の国」とはちょっと趣が違いますね。夕凪~は映画化もされた名作ですが、この作品も派手さはないものの間違いなく名作と言えるでしょう。

 こうの史代と言えば、スクリーントーンとベタをほとんど使わずに手書きで処理する漫画家として、私の中では有名です。そのせいで絵柄はやややぼったいものとなりますが、それがまたいいと思える様になれば、立派なこうの史代ファン……なんじゃないかと思います。いやいやホント、一目でこうの史代とわかる、味のある絵柄ですよ。

 この作品が完結し、現在は次回作へ向けて準備中というところでしょうか。もちろん、次も期待しています。

 さんさん録(サイト内レビュー)

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2008/12/06

さんさん録

Img119 こうの史代 著。漫画アクションにて2004年~06年にかけて連載、全2巻完結。

 3年前に定年を迎え、さらに妻に先立たれてしまい、生きる意味を見失ってしまっていた老人、奥田参平。様子を見かねた息子に促され、息子夫婦と一緒に住むことになったが、その時参平は、妻の遺品から「奥田家の記録」というタイトルの分厚いノートを見つけた。それは参平の妻が記した奥田家の生活レシピが満載のノートであり、参平はそのノートの内容を参考にして料理をしたり、洗濯をしたりしながら、少しずつ妻の記録をたどっていくのであった。

 じいさんが主人公の、なんとも心温まるショートストーリー。こうの史代と言えばスクリーントーンを使わず定規も使わずベタも一部の髪の毛意外には使わずという、ほぼすべてを手書きで表現する漫画家なわけですが、その作風が見事にマッチしている作品だと思います。言い方を変えると、何を描いても年寄りやじじばばくさい人が似合ってしまう作風でもあるわけですが……。実際、こうの史代の作品に出てくるキャラは、じじくさい、ばばくさい人が多いですしね。いやホントに。けなしてるように見えますがそんなことはなく、非常に面白く読ませる作品でした。2巻で終わってしまったのが残念です。

 作者は現在、「この世界の片隅で」という太平洋戦争中の呉を舞台とした作品を連載中。これがまた良い作品で、おそらく次の3巻で完結なので、その時にはまたレビューしたいと思います。

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