島本和彦

2009/10/03

燃えよペン

Img461 島本和彦 著。シンバット及びYOUNG CLUBにて1990年~91年にかけて連載、単行本全1巻完結。

 現在月刊連載を数本持つ漫画家、炎尾燃は、どこにでもいるごくありふれたスパークするマンガバカ。東京に城(スタジオ)をかまえた彼は、そこでアシスタントたちと共に、昼夜命がけで作品に取り組んでいた……! 例えば、熱い効果線を描くために、実際に自分の大事な物を破壊してその効果線を確認してみるとか! スタローンがモデルのキャラを描くときには、自身がスタローンそっくりになってしまうとか! これ以上のリテイクは彼女と別れることになろうとも、作品の質のためにはリテイクを出してしまうとかである!! すべてのマンガ家がこうだと思ってもらいたい!! 熱血マンガ家炎尾燃の、身体の限界や作品の質、そして〆切との戦いは今日も続く……!

 この物語はフィクションだがフィクションでないところもある! と作中でも語っている、おそらくはマンガ家としての作者の実体験マンガ。商業であれ同人であれマンガというものを描いたことがない私でも(だからこそ?)、ああ、マンガ家ってのは、こんなに熱くて、辛くて、そして心震えるものなんだ……と思わずにはいられない作品です(褒めてます 古い作品で設定にやや現在とはそぐわない部分もありますが、マンガが好きで島本和彦が嫌いじゃなければ、きっと楽しめると作品ではないでしょうか。

 この作品は、その後、炎尾燃がまだプロになる前を描く第2部が始まるんですが、1話限りで雑誌休刊に伴い終了。しかしその魂は、おそらくは現在ゲッサンにて連載中の「アオイホノオ」に受け継がれているのだと思います。そしてそれとは別に、この燃えよペンの続きといえる作品「吼えろペン」が、サンデーGXにて連載、完結済み。吼えペンも面白かったですが、燃えペンに比べるとややストーリー色が強く、なんというか、エンターテインメント作品だなー、という感じなんですよね。けなしてるつもりじゃないんですが、私はこの燃えペンの、まさに熱き情熱をだだ漏れにさせている「無駄な熱さ」が大好きだった、というわけなんでしょう。また10年後や20年後になれば、作者にも新たな自説が生まれていることでしょうし、その時にまた続きが読めれば、と思っています。

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2009/08/29

逆境ナイン

Img425 島本和彦 著。月刊少年キャプテンにて1989年~91年にかけて連載、単行本全6巻完結。

 逆境とは、思うようにならない境遇や、不運な境遇のことを言う! 夏の甲子園大会地区予選を間近に控えたある日、全力学園野球部主将を務める3年生、不屈闘志は、校長から「廃部だ!」の一言を突きつけられてしまう。弱いから廃部。あまりにも簡潔な校長の言葉に、不屈は逆に発憤。この校長室の隅に、甲子園優勝旗を飾りたくありませんか?! という言葉と共に、その証拠として10日以内に地区最強の甲子園常連校、日の出商業を叩き潰すという誓いを立てる。不屈を含めて9人しかいない野球部員たちは、当初はできるわけないと反発するものの、最終的には不屈に同調。だが、地獄のような特訓を経て迎えた決戦の3日前、野球部員9人のうち5人が怪我や補習でリタイア。さらに翌日1人が風邪、1人が逃亡してしまい、残ったのは投手の不屈と捕手の大石のみ。さらにあろうことか、試合前日夜に今度は不屈が、利き腕である左腕を脱臼してしまう……。

 そんな感じの、熱血系野球マンガ。逆境があって、それを乗り越える、というのを繰り返すわけですが、魔球は出てくるわ100点差を逆転するわと、設定や展開は明らかにトンデモ系。しかしそういった表面部分とは裏腹に、不屈を筆頭とする登場人物たちの言動、さらに言えば生き様が無駄に熱すぎるという、本質的には熱血系の作品です。変にひねってしまって、あれれ? これはどうなの? と思う部分もあるにはあるのですが、日の出商業との練習試合編、中間考査編、そして伝説の109点差をつけられた地区予選決勝、対日の出商業編あたりなんかはもうとにかく熱すぎます。全国大会決勝戦前日の桑原さんとの会話とかも最高。男とはこうであらねばならない、みたいな理想論を掲げ、そのまま最後まで突っ走ってしまったという、完結したのが奇跡のような類い希なる傑作でした。本当に面白かったです。

 この作品自体は全6巻で完結(最終回の終わり方もまた見事です)ですが、不屈がこの後プロ入りした後の話を描いた「ゲキトウ」という作品が存在します。……が、正直逆境ナインを超えることは全然できないまま、残念ながら打ち切り。逆境ナインの熱さというのは、青春の熱さ、という風に例えられると思うんですよね。無骨で融通が利かないけど、でもどこまでもまっすぐな熱さ。そしてその青い熱さは、プロという商業の世界では生きていけないものでもあると思うんですよ。再開の可能性もあるとのことですが、もし再開するのなら、そういった熱さをまた読める展開になっているといいなー、と思います。

 それと、この作品は、2005年に実写映画化もされていたりします。知ってはいたのですが、実写映画だろうがアニメだろうが、この原作を超えることはできないだろう、という思いが私の中にあったため、意図的に観ませんでした。こういうネガティブな考え方は、やめたほうがいいとは思ってるんですけどねー。

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2009/05/18

アオイホノオ

Img320 島本和彦 著。ヤングサンデーにて2007年連載開始、休刊にともない中断後、ゲッサン創刊号より連載中。単行本2巻まで以下続刊。

 時は1980年代初め、大作家芸術大学映像計画学科に所属する漫画家志望の1回生、焔燃は、マンガ業界全体が甘くなってきていると感じていた。雑誌に掲載されている作品は、ただなんとなく面白いだけ。絵は下手で雑でどこかでみたような物が多く、明らかに自分の方が上手い。そういった思いは、本気になればすぐに漫画家としてデビューできると焔に思わせるだけの、十分な根拠となっていった。しかし、週刊連載をすることになれば、大学は辞めざるをえない。そうなると、今味わっているこの青春も、二度と手に入らなくなってしまう。かくして、投稿すれば即デビュー(予定)の男、焔燃は、今日のところはまだ立ち上がらないのであった。

 おそらく作者の自伝的な作品。上記あらすじだけだとちょっとアレな口先人間ではありますが、このままで終わるはずがないことが確定しているので、そういう意味では安心して、笑って読めますね。実際作中では少しずつですがちゃんと進んでおり、ゲッサン掲載分ではようやく出版社に持込に行く直前までは来ています。特筆すべき点としては、学生時代の庵野秀明、矢野健太郎と言った実在の人物が多数出てくることと、当時すでにデビューしているあだち充、高橋留美子、細野不二彦と言った漫画家の作品が出てくること。そして、その当時の漫画界の歴史がわかること、でしょうか。特に週刊少年サンデーで「うる星やつら」を連載していた高橋留美子が、ビッグコミックスピリッツで「めぞん一刻」の連載を始めるところなんて、当時を知らなければ感想の言いようもない部分ですからね。作中には当時の漫画雑誌の表紙や電車の吊り広告などが出てくるなど、どこまでが本当でどこからが脚色なのかはわかりませんが、非常に興味深く、面白く読むことができます。

 主人公の名前が同じ読み(炎尾燃)である「燃えよペン」シリーズも作者の自伝的作品だと思いますが、あちらはすでに漫画家としてデビューした後のお話なので、重なる部分は無いのでしょう。ヤンサン休刊でどうなることかとは思いましたが、無事連載再開となり、ホント良かったです。

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2009/02/21

ワンダービット

Img216 島本和彦 著。ログインにて1991年~94年にかけて連載、単行本全4巻完結。現在は写真の文庫版全3巻発売中。

 好き嫌いが多い人や、食べ物を残す人をこらしめるため、科学者、首藤レイは食べ物が人を選ぶようになる機械を開発し、作動させる。機械は正常に作動し、食べ物を残すような人の前からは食べ物が消えたが、同時に首藤レイの前からは、彼が唯一嫌いなナス以外の食べ物が消えてしまった……。魔法のランプから出てきた魔神に、3つの願いを10000個にしろと男が言うと、なんとその願いは叶えられてしまう。喜び勇んで様々な願いを言う男だったが、すぐに願いたい事は尽きてしまい、男は願いを言うことすら苦痛になってしまった……。平行世界の自分に出会った男は、お互い示し合わせてわざと違う選択肢を選び、未来にどう影響が出るかを確かめようとした。結果は少しずつ、だが確実に出始め、やがて楽な選択肢を選び続けてしまった側の男は、自分がもう一人の自分に比べて、明らかに劣ってきたことを知ってしまった……。くだらないアイデアをSFっぽく味付けし作品にまで昇華させた、島本風無駄に熱血短編集。

 3つの願いを100個にしてもらう、とか誰でも考えると思うんですよね。で、そこからさらに発展させて、オチのある作品に仕立て上げてしまう。それを月2回ずつ連載していく(当時のログインは月2回発行でした)。そこがこの当時の作者のすごかったところでしょう。短編集だけあって、面白い話もあればそうでもない話もあるわけですが、総じて作品のレベルは高いです。私が一番好きだったのは、「怪奇カメムシ男」ですね。ヒーローにあこがれていた男がいたが、いつまでたっても悪の組織は現れない。それならばと自分で悪の組織を旗揚げし、息子をヒーローに育てあげ、息子に倒されようとするが、まだ息子が小さい時に、組織を乗っ取られてしまう……。この後の展開が最高です。あとは上でも描いた、平行世界を描いた「敵に勝つより己に勝て!!」とかですね。これもラストが最高。

 島本和彦と言えば代表作は山ほどあるわけですが、私としては「逆境ナイン」「燃えよペン」そしてこの「ワンダービット」がトップ3ですね。そういえばワンダービットには、確か本連載前のプレ連載の時に、この世にはマンガの釜があって、そこに手を入れてマンガを取り出す、というのがあって、そこに一度取ったマンガを落としてしまった島本和彦が、釜の女神から「あなたが落としたのはこの金の作品ですか? それとも銀の作品ですか?」と聞かれ、正直に答えて金と銀の作品をもらう、というネタがあったんですよね。で、片方がこのワンダービットだったと思うのですが、もう片方はどうなったんだろう。そしてその話は、文庫版のワンダービットには収録されてないんですよね。確か初期単行本の方には収録されていたと思うのですが、手元にないので確認もできません。残念。

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