読み切り

2010/01/07

フタガミ☆ダブル

Img557 矢吹健太朗 著。週刊少年ジャンプ2010年05、06合併号掲載読み切り。

 ごくごく普通だと自分では思っていたし、その日までは実際その通りだった中学生、双神想介は、ある日背格好から服装まで何もかも自分そっくりの人間を見てしまう。さらに自分がいないはずの場所にいたと姉やクラスメイトたちから続けざまに言われ、彼はそれが自分で見てしまったら死ぬと言われているもう一人の自分、ドッペルゲンガーではないかと考えはじめる。ところがそこに、想介が密かに憧れていたクラスメイト、雨音結花が現れ、それはドッペルゲンガーの正体である幻人(イド)という残留思念の集合体であり、早く捕まえないと面倒なことになってしまうと言うのだったが……。

 そんな出だしの、学園オカルトコメディー。上記あらすじ通り、「ドッペルゲンガー」と「イド(自我)」というネタを合わせ、それをふくらませてつくったという感じのお話です。ドッペルゲンガーを見た者は死ぬ、というのは現実にある都市伝説ですが、それに対するオリジナルの答えも作中で示してあり、単にドッペルゲンガーという設定を流用しただけでなく、ネタとしてきちんと組み入れてあるな、という印象をうけました。作品設定としては使い回しが効くし、キャラも問題なしとすぐにでも連載できそうな勢いではありますが、そもそも作者は「BLACK CAT」や「ToLOVEる」と言った人気作を手がけていたわけですし、これくらいやってくれないと困る、というのが本当のところかもしれませんけどね。

 そして今回調べていて、離婚騒動のことを初めてちゃんと知りました。ToLOVEる連載終了時に妻がどーこーとかネタになっていたのをちらっと見た覚えはありますが、まさかこんな展開だったとは。どこまでが本当なのかとかはわかりませんが、こうして高評価の読み切りの発表もできたことですし、これからもぜひがんばってほしいと思います。

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2009/12/22

宇宙のSPARROW

Img541 高橋一郎 著。週刊少年ジャンプ2010年03、04合併号掲載読切。

 日頃から目立ちたくないと思っている高校2年生、椿龍太は、ある朝車にはねられて一度死んでしまい、車を運転していた宇宙人、スパロウの命をもらうことで生き返る。ところがその副作用か、彼は軽く力を加えるだけでどんなものでも壊すことができるような、怪力を手に入れてしまっていた。もしバレれば、クラスで完全に浮いた存在になってしまう。そう危惧する椿だったが、そこにスズメに魂が乗り移ったスパロウが現れ、彼が椿に接触している限り、そのスーパーパワーは抑えることができると言う。こうして怪力に関しては事なきを得た椿だったが、今度は四六時中スズメを肩や頭に乗せていなければならず、結局目立ってしまうことに変わりはないのだった。もう変人のレッテルを覆すことはできない。そう嘆く椿に対し、それならスーパーパワーを活かしてヒーローにでもなったらどうだ? とスパロウは提案するだったが……。

 そんな出だしの、ヒーローコメディ、でいいのかなー。いきなり不満点を挙げますが、ちょっと違和感があるというか、筋が通ってないように見えてしまいました。中盤以降で明確にされる椿の願いは「変人としてクラスで浮いた存在になりたくない」というものなわけなんですが、それって序盤の「目立ちたくない」とはそのままイコールじゃないですよね。だって目立ったら必ず変人になるわけじゃないし。ストーリーのキモは、他者にいくら変人と言われようと、物事の本質には関係が無い、と椿が気付く部分なわけであり、それはまったく問題ないのですが、その結論に持っていくなら、伏線として序盤に学級代表のエピソードのような、もっと強いエピソードを入れておくべきだったと思います。単に目立ちたくないと言っているだけでは、少なくとも私には、伏線になっているようには見えませんでした。

 それ以外は、目立ちたくないのにスズメをいつも連れていなければならないとか、スズメを離すと怪力が使えるようになるとか、設定としては悪くないと思います。というかストーリーだって、終盤のシリアスとコメディーの入り交じった展開はそれなりのレベルだとは思うのですが、上記のような違和感をずっと持ちながら読み続けることになってしまうせいで、今一歩楽しめなかった、というのが正直なところでしょうか。序盤の違和感が全てをだいなしにしてしまった、非常に惜しい作品だったんじゃないかと思います。

 調べるまでまったく気付きませんでしたが、作者は「バレーボール使い 郷田豪」の作者だったんですね。スポーツマンガではなくちょっとシュールなギャグマンガという感じで、展開が予想できなくて見た目よりは面白かったなー、という記憶は残っています。この読み切りも十分連載に耐えうるつくりだとは思いますが、個人的にはあまりコメディー寄りにせずに、ストーリー重視の作品の方がいいんじゃないかなー、なんて思うのですがどうでしょうか。

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2009/12/16

逢魔ヶ刻動物園

Img535 堀越耕平 著。週刊少年ジャンプ2010年2号掲載読み切り。

 今まで何も人並みに出来た事なんてないという女子高生、蒼井華は、役立たずな自分を変えたいと思い、逢摩ヶ刻動物園のアルバイト募集に応募する。ところが面接のため動物園を訪れた彼女が見たものは、ライオンに食べられそうになっている顔がウサギの園長という、わけのわからないものであった。もう帰りたいと思う華だったが、アルバイト募集の貼紙を見てどう思った? という質問に、摩が魔になってましたと答えたところ、何故か採用と言われてしまう。園長は変だけど動物園としてはフツーだし、とりあえず頑張ってみようと華は覚悟を決めるが、その時彼女はまだ知らなかった。この動物園の園長は呪いをかけられた人間、動物たちはみな魔力を持って生まれてきた者たちであり、午後4時44分の閉園時間を過ぎた後、逢摩ヶ刻動物園は逢「魔」ヶ刻動物園となるのだということを……。

 そんな感じの、えーと……超常バトル? ストーリーマンガというよりは、設定説明マンガと言った方が近い気がしますが、読み切り作品(もしくは連載第1話)としてはそれでまったく問題ないでしょう。具体的に何を説明してるかというと、園長の呪いの解き方と、園長にいいように利用されてるように見える動物たちの本心、の2点。今作は読み切りですからそこまでで終わりですが、仮にこれが連載となるなら、それをふまえた上で物語が始まる、という感じで問題なく持って行けると思います。読み切り作品として、または連載第1話として、オーソドックスではありますが基本がしっかりしている作品、というふうに感じました。

 しかしながら、気になったのはストーリーの肉付け部分。ウサギ園長は魔力を操ることによって色々戦ったりするわけですが、どうにもそのあたりがごちゃごちゃしすぎです。色々設定はあるみたいなのですが、動物の力を使って戦うことができる、くらいのシンプルさの方が良かったのではないでしょうか。「権限発動」というのも決めゼリフのようではありますが、正直意味がわかりかねます。設定に凝るのはもちろんいいのですが、わかりやすくなくてはいけないと思いますので、そのあたりは今後直していってもらいたいなー、なんて思いました。

 作者の経歴はよくはわかりませんが、2006年に手塚賞の佳作に入ったのが最初なのかな? テーマも悪くないですし、もう少し描き慣れて無駄な演出を省いていくことができれば、もっともっと面白くなっていくと思いますので、期待しています。

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2009/12/01

SWOT

Img515 杉田尚 著。週刊少年ジャンプ2009年52号掲載読み切り。

 東大に入ってNASAに勤めることを目指し、毎年30人もの東大合格者を出しているという県立紅葉高等学校に転校してきた学崎強。だが彼の思惑とは裏腹に、昨今の少子化の影響で合併が進んだ紅葉高校は、今でも東大合格者を15人程度は出す一方、不良たちの抗争で校内が荒れているという、勉強にはあまり向かない環境となってしまっていた。クラスで騒いでいる不良を一蹴できるほどケンカは強いが、不良は嫌いだし勝った負けたに興味も無い学崎は、静かな場所を求めて女生徒が一人本を読んでいるだけの屋上へと辿りつく。だがその女生徒、蓮野ねねは、一人で名のある不良グループ3つを潰したという不良女であり、しかもあろうことか学崎は、その蓮野に一目惚れをしてしまうのであった……。

 そんな感じの、学園+ラブコメ+バトル。ラブコメとバトルの比率は3:7くらいだと思いますが、これ、6:4くらいにならないものですかね?(今日の結論)

 まずバトル部分に関してですが、学崎のケンカが強い理由は、あらゆる要素を瞬時に数値化してアルゴリズムに当てはめ、勝つための確率を割り出して行動している、と言う感じの、よくある机上の空論タイプです。ストーリーはオーソドックスではありますが一応ポイントは抑えられていて、ラストまで筋は通っていますが、これはできることならば、主人公の戦い方に将来の夢であるNASAを絡めるとかしてほしかったですね。第一宇宙速度パンチとか(ボツ) あと理屈バトルの側面もあるのですから、蓮野がなんで強いのかの理由付けも欲しかったところです。以上のような理由から、バトル物として最低限のレベルには達していますが、それ以上ではない、と私は思いました。

 そしてラブコメ部分ですが、「俺と一緒に勉強しないか?」には正直ちょっと驚かされました。ラブコメバトルというタイプの作品で、まさかこんな展開になるとは予想できませんでしたよ。だけど惜しむらくは、進展がほとんど無いこと。連載作品ならこの程度の進展速度でもいいんでしょうが、読み切り作品でラブコメ要素も入れるなら、もうちょっと進めてくれないと困ります(私が)。そして進まない理由は、やはり比重がバトルに寄ってるからだと思うんですよね。バトル作品としては完結してるけど、ラブコメ作品としては完結してないわけで、だからこそ最初に言ったように、比率をバトルとラブコメで4:6くらいにして、バトルは完結しなくてもラブコメは完結させてほしかった、ということに繋がるわけです。

 斬もバトル物であったことから、おそらく作者はバトル物を描くのが好きなんだろうなー、とは思いますが、ここらで一つ、ラブコメ要素の強い作品を描いてみたりしてくれないでしょうか。もしそうなれば、少なくとも私は非常に期待して読みますよー。

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2009/11/29

揉み師

08 空詠大智 著。クラブサンデー(Webコミック)掲載読み切り。

 胸を揉むことで脳や身体に刺激を与え、体調を劇的に変えることができるという、中国で4000年前にあみ出された究極のマッサージ、乳揉(ニャオマム)。その後継者である高校生、黒木マサトは、白井剣術道場に居候する傍ら、修行のための人助けと称して乳揉みを行う日々を送っていた。だが本人は至って真面目に乳揉みを行っているのだが、その行為のイメージからか道場の評判は悪くなり、最近では乳揉み道場なとど噂されて門下生も増えず、経営も苦しくなるばかり。このままでは道場を畳むことになるかもしれないと、幼なじみの道場主、白井時奈に言われ、マサトはそれならばと一計を案じ、乳揉みの技術を活かして門下生を増やそうとするが……。

 そんな出だしの、能力バトルマンガ。マサトの乳揉みは単純に体調を良くするものから、怪力になれる「鬼神揉み」、運動がしたくなる「獣揉み」等の奥義まであり、かつ服の上からだろうと乳を見れば、その人物の身体の事がわかる、という分析能力まで持っています。くだらない設定を一つ用意し、あとは真面目に話をつくる、というスタイルは私が好きなものではありますが、この作品におけるネックは、あまりに中盤以降の展開がオーソドックスすぎること。この程度の展開では、起承転結の承程度だと思います。この作品タイトルなら女の乳を揉むシーンが満載なんだろう、と思わせておいて、序盤から中盤にかけて揉むのは男の乳ばかり、という展開は笑えただけに、中盤以降はもう一ひねりどころか、二ひねり、三ひねりくらいあっても良かったんじゃないかと思いました。

 ところが、です。この作品は全34ページで、33ページ目までですべての決着が付き、34ページ目はオチとしてのページなわけなんですが、この最終ページのオチが、それまでのオーソドックスすぎる展開を補って余りあるくらいの、私好みの秀逸なラストでした。詳細はぜひ読んで欲しいので書きませんが、作者は実はこのオチを書きたいがためにこの作品を考えたんじゃないの? とか思いたくなってしまうくらい。画像のアオリに「28ページ目まではある意味前フリ」と書いてあるのですが、これって「33ページ目まではある意味前フリ」の間違いですよね? こんな重要な部分を間違えるなんて問題ですよ? まぁ落ち着け?(お前がな

 何度も言いますが、メインストーリー自体は悪い意味でオーソドックスすぎ、つまらないとまでは言いませんが、正直オススメとも言えません。だけどこのラストは、思わず感想を書いたり語ったりしたくなるくらいの、話の流れにも沿った本当に秀逸なものでした。オチとはこうあるべき、と言ってしまっていいくらいです。あとはメインストーリーをもう少しなんとかしてくれれば、一気に本誌掲載どころか連載獲得レベルだと思います。ただそれには、若干目の描き方等に不満もありますけどね。

 この作品は現在、小学館のWebコミック「クラブサンデー」にて無料公開中ですので、気になった方はぜひ「クラブサンデー 揉み師」でググって読んでみてくださいませ。(掲載期間は2010/1/21まで予定)

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2009/09/11

アオソラ

Img439 雷句誠 著。月刊少年マガジン2009年10月号掲載読み切り。

 時乃アオは、ごく普通の小学生だった。だが彼には、雪間ヒデという、格好ではなく人間がカッコいい友人がいた。彼は、車に撥ねられ路上で息も絶え絶えになっている野良犬を助け、河原に葬ってあげることができるような少年だった。後日、その場にいたクラスメイトの朝倉裕子が、犬が河原で元気にしている絵を描いた。アオとヒデは朝倉の才能に驚き、そして2人も絵を描いた。3人はこうして、意識して絵を描くようになっていった。――時が経ち、5年後。中学生になっていたアオは、ごく普通の中学生ではなくなっていた。絵はうまくなり、数々の賞を取るようにはなったが、やる気は無く、将来というものに悲観する毎日を送っていた。ヒデは変わらず友人だったが、アオよりもはるかに本気で絵を描き続けていた。そして才能溢れる朝倉は、身体が弱く、学校を長く休んだ後、ついに亡くなってしまう……。どんな生き方をしても、最後は死んでしまう。一生懸命やっても、最後は全部無駄になる。それが真理だと気付いたアオは、将来というものを考えるのをやめ、より一層享楽的な日々を送るようになっていく……。

「金色のガッシュ」で有名な雷句誠が送る、おそらくは精神部分における自伝的作品。自伝というよりは、作者の漫画家としての、所信表明作品、と言えるのかもしれません。カッコ悪い結末を迎えてしまったガッシュ事件の後に、再び作者がカッコいい生き方を目指す。この作品には、そんなメッセージが込められているような気がしました。色々ありましたが、これからも雷句誠という名前は、追い続けたいと思います。(ちなみにガッシュ事件に関しては、私はどちらが正しい、間違ってる、とか結論を出さないことにしています)

 というわけで作者は、9/9創刊の別冊少年マガジンにて、新連載「どうぶつの森」をスタート。第1話を読んだ限りでは、独自のノリはそのままですが、私にはちょっと評価がし辛いなー、という感じでした。正直、週刊少年マガジンに掲載された「どうぶつの森 エピソード0」の方が面白かったですね。まぁまだ第1話ですし、まだまだこれからでしょう。あと、ジャンプSQとヤングキングアワーズにも読み切りが載るらしいので、そちらもチェックしますよー。あれ、小学館は……?(終了

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2009/09/01

メタリカメタルカ

Img428 水野輝昭 著。週刊少年ジャンプ2009年40号掲載読み切り。

 レアメタル、それは希少価値が高く、特別な性質を持つ金属の総称。そして危険を顧みずにそれらを探し求めたり、加工したりする者たちのことを、この世界では鋼探索士(ミネア)と呼んだ。中央金工都市メタルシティにある金属管理協会員であり、元C級鋼探索士でもあるシノの仕事は、そんなレアメタルの流通状況をチェックしたり、流通量の少ないレアメタルの採掘を鋼探索士に依頼したりすること。その日もいつものように仕事をしていたシノだったが、そんな彼女の前に、級付きの鋼探索士になるためにこの街にやってきたのだという、ルカという少年が現れる。シノはとりあえずルカを協会本部へ連れて行くが、この仕事は危険なものであり、子供にできるようなものではない、と会長は渋い顔。ところが、なんとルカが消えた英雄と呼ばれるSS級鋼探索士、バルクの息子であることがわかり、状況は一変。まずはE級鋼探索士になるため、ルカはテストとして、C級危険区ヴォルカノ山地に、レアメタル、ジュエライト鋼を取りに行くことになる。そしてシノは、そのお目付役兼保護者として、ルカに同行する羽目になってしまうが……。

 そんな出だしの、アドベンチャーバトル。ルカは実は鋼探索士のルーツであるメタリカの一族の末裔であり、触れることで金属を流動化させ、自在に形を作り替えることができる、という能力を持っています。起承転結もしっかりしてるし、わかりやすい悪役も出てくる、見栄えのいいドラゴンも出てくる、ピンチの回避方法もなるほどと思える、さらに長期的な目標として、父を見付け、超金属を探す、というものもあり、正直今回の金未来杯の中では、読み切りとしても連載前提作品としてもピカイチの出来だと思いました。抜群に面白いというわけではありませんが、完成度は非常に高いと思います。

 問題点を探すとすると、まずはキャラの顔というか目。どのキャラもアップになると目の下にくまがあるように見えるというのは問題だと思います。また4ページ目のヒロイン、シノの3段ぶち抜き、腰が太すぎてバランスがおかしいですよね。足も長すぎますし。それからこれは重箱の隅ですが、ジュエライト鋼が時価300万バールなのはいいのですが、冒頭でグリア鋼の価格とか出しておくべきだったんじゃないでしょうか。300万バールがどれだけすごいのかイマイチわかりません。それとこれは問題点というか要望ですが、チタンとかタングステンとか、実在の金属は可能な限り出さない方が良かったんじゃないでしょうか。硬さの対比のためにダイヤとかはまだいいとは思うのですけどね。他にも、やけにトリコっぽいとか、モンスターハンターの影響受けてる? とか、ツッコミ所もありますが、そのあたりはまぁいいとしましょう。

 近未来杯で1番になったところで掲載が決まるわけではないはずですが、今作は十分連載としてやっていけるポテンシャルを持った作品だと思います。次回が首尾よく連載か、もしくはまた読み切りかはわかりませんが、とりあえず名前は覚えておきますので、がんばってください。

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2009/08/28

八咫烏

Img424 小林裕和 著。週刊少年サンデー2009年39号掲載読み切り。

 戦国期、卓越した火縄銃の用法を用いて必勝の傭兵として各地を転戦する、雑賀衆と呼ばれる集団が存在した。文禄7年(1564年)、播磨の国で行われた山城での籠城戦に参加していた雑賀衆の一人、雑賀孫一は、その日も期待に違わぬ働きを見せていたが、敵方に援軍が到着して味方の後詰めは来ず、その戦力差は3倍という現実に、城主は撤退を決意。孫一を含めた雑賀衆にも同行を命令するが、孫一はそれを拒否し、きっちり片を付けるためになんと雑賀衆20人だけで城に残ると言うのだった……。

 そんな感じの、戦国絵巻マンガ。いわゆる鉄砲集団雑賀衆をそのままベースとしており、タイトルの八咫烏(ヤタガラス)も、実際に戦国時代に雑賀衆の鈴木家が旗に使っていたそうです。画やコマ割りも問題無いし、一読する分にはフツーに読める作品なのですが、きっちり考察しようとすると色々問題点というか粗が見えてくる、私としてはちょっと惜しい作品でした。

 具体的に言うと、メインストーリーは雑賀孫一率いる雑賀衆の活躍とこの戦いの顛末なわけですが、そこに若き日の黒田孝高が出てきて、一兵卒としては無能だったが、この戦いを経て名軍師としての道に目覚める、というサブストーリーが組み込まれてるんですよね。それ自体は問題ないんですが、それを証明するための手段がちょっとお粗末。約6倍? の敵に対し、黒田孝高の将棋を元に雑賀孫一が考案した奇襲作戦で勝利を収めるのですが、兵力が均衡していた当初は敵は2方向から山城を攻めていたのに、援軍が来たら今度は何故か全軍をもって正門のみから攻め入ろうとしているという、お前それ一番前の部隊しか戦ってないだろう状態。もしここで、黒田孝高の考案した策で敵を正門に集中させることに成功した、という記述が1ページでもあれば、全然説得力が増したであろうだけに残念です。そしてそれは、主人公は雑賀孫一なのだから、サブキャラである黒田孝高をどこまで出張らせるか、という根本的な問題に繋がっちゃうんだと思うんですよね。おそらくここで黒田孝高を出張らせてしまうと、主役のはずの雑賀孫一がかなり食われてしまう、と思ったのではないでしょうか。

 雑賀孫一を主役としてマンガを描こうとした。サブキャラに若き日の黒田孝高を持ってきたら、良い感じになったけど、主役が食われそうになってしまった。仕方ないので、黒田孝高の出番を減らした。もし本当にこういう流れだったとしたら、非常に残念なことです。解決策としては、雑賀衆はあくまで傭兵集団、影の存在であるとし、雑賀孫一をメイン主人公にすることはすっぱりあきらめ、黒田孝高を主人公にしとけば良かったんじゃないかなー、と思います。雑賀孫一は影の主人公という感じで。なんというか、いつにも増して言いたい放題ですねごめんなさい。

 作者は現在、クラブサンデーにて行われている新人王決定戦にノミネート中であり、Bブロック予選を読者投票1位で勝ち抜いた作品「D.O.U.M」が現在もサイトで読めるようになっています。こちらはうってかわって近未来バトルアクション作品で、やはり一読する分には問題なく読める作品なのですが、できるならもう一山欲しかったなー、という物足りなさもある作品でした。ネタをもう少し詰めて、うまく消化できるようになれば、一気に面白くなると思いますので、期待しています。

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2009/08/25

世直し伝説!! 世奈押郎

Img421 根田啓史 著。週刊少年ジャンプ2009年39号掲載読み切り。

 時は西暦20××年、全世界を襲った大不況はパソコンやケータイが滅び去った現在もなお続き、大人たちはこれ以上ないというくらいにヤケクソになっていた。子供はそんな大人たちに立ち向かえるはずもなく、ここ大不況小学校4年2組でも、漢字のテストを1問でも間違えたらワニのいる池からバケツで水を汲んできて廊下に立っていなければならないという、国語の先生の無理難題が押しつけられていた。前日に徹夜で漢字ドリルをやってきたにも関わらず、一問も同じ問題が出ないという事態に陥っていたマモルは、無理矢理空欄を埋めるもののあえなく0点。だがその時、突然クラスに3匹のワニを従えた転校生が入ってきて、もうワニの心配は無いと言う。彼の名は、世奈押郎。こんな世の中を少しでも良くしたいと思っている、一介の小学生である……!

 そんなテンションの、小学生とは思えない渋さで世直しを行う人情ギャグ。今風のシュールな部分もありますが、どちらかというとバカバカしくて笑えるタイプのマンガです。まるで世紀末救世主伝説のようなキャラを出しておきながら、やってることがマル付けをしたいがためにテストを時間前に終わらせてしまうとか、非常にバカバカしいそれらのギャグは逆にセンスが光ります。「正しさ」には「企み」が隠れているとか、3秒以内と言いながら3から数え始めるのはおかしいとか、そういった小ネタも秀逸。ただし連載として考えた場合、一番のネックは、このクオリティを継続できるかどうかでしょう。今回は14ページ+16ページの二本立てですが、ギャグマンガとしてはちょっと長めなので、10ページくらいに凝縮しての短期集中とかで腕試ししてみてもいいんじゃないでしょうか。ネタを出し続けるのが難しいタイプのギャグマンガだけに、期待しています。

 作者はえーと、2年前に赤塚賞佳作を取ったのが最初なのかな? ギャグのネタは面白いですが、長く漫画家をやろうと思ったら画力がまだまだ足りてないと思いますので、そういう意味ではまだまだ精進の時でしょう。がんばってください。

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2009/08/11

north island

Img406 安藤英 著。週刊少年ジャンプ今週号(2009年37、38合併号)掲載読み切り。

 アシュラ組幹部だった宇宙ヤクザのエイシンは、あるときヘマをしたとはいえ彼の舎弟を破門しようとした組長を、それでは仁義が通らないとカッとなって半殺しにしてしまい、宇宙の果てへと逃げる羽目になってしまう。そしてやってきたのは、宇宙の果ての果てにある、どの宇宙ヤクザのナワバリにもなっていない星、地球。だが到着間近というところで、エイシンはとある地球の映像を見る。それは、一人の女子高生が腕がぶつかったという理由でヤクザに難癖をつけられ、慰謝料を請求されているという場面であった。その場には仁義も任侠も無いと憤ったエイシンは、女子高生を助けに行くと決意するが、舎弟のヘマによりバーストエンジンを暴走させた宇宙船ごと墜落。その衝撃であろうことか、エイシンと女子高生、新海月帆の心と身体が、入れ替わってしまう。舎弟の推測によれば、もう一度同じショックを与えれば戻れる可能性があるということだが、バーストエンジンを再チャージするために必要な時間は、20時間。それまでエイシンは月帆として、月帆はエイシンとして過ごすこととなるが、両親から厳格に育てられ、言いたいことを言えないでずっと生きてきた月帆の生活は、エイシンにとって筋が通らないものばかりであった……。

 いわゆる任侠物に仕立て上げてはありますが、本質的には青春ストーリーですね。変わりたいけど変われない。なら俺がそれを手伝ってやる、みたいな。かと言って宇宙ヤクザという設定が浮いているわけでもなく、アクセントとしてはまったく問題なく働いていますし、内容もわかりやすくオチもちゃんとあって、十分面白かったです。ここが最高に面白い、という部分は無いのですが、総合力の勝利という感じでしょうか。派手さは無いけど心にじんとくるような、良い作品でした。

 最初読んだとき、タイトルの意味が全然わからなかったのですが、これ、北島三郎の北島を英語にしただけですね。作中でエイシンが好きな歌手が北島三郎だ、という設定があるのですが、ジャンプの読者世代じゃあ、北島三郎=ヤクザの世界 とはなかなか連想できないんじゃないかなー、なんて的はずれなことを考えていました。

 作者の安藤英は、2001年の天下一漫画賞で審査員特別賞を取ったのが最初なのかな? 読み切りデビューもしているようで、ちょっと読んだ覚えはないのでわかりませんが、今作は問題なく面白かったです。ただこれ、連載向きのネタでは無いと思うんですよね。なので、次は連載に向けた読み切りを読んでみたいなー、と思います。

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